保護者Tさんと日野理事長 対談
娘の人生、自分で正しいこと、自分でやりたいことを判断して、それを貫ける人間になってほしい
入学の決め手は、理事長のメッセージや先生方の言葉かけ
日野 今日はそもそもどういうルートで当校を知ったのか。入学にいたるまでのいろんな葛藤や悩み、親子の対話など、その一端をお聞かせいただければと思います。
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| このページの写真はすべて、スクーリング会場でもある果樹園レストラン「ラピュタファーム」で撮影されました |
保護者Tさん うちの娘は今年、公立高校を受験して入学。目指していた高校でもあり、希望いっぱいに入学したはずですが、1ヶ月ぐらいたった頃から、学校に足が向かなくなってしまいました。朝起きられない、体調がよくないと言って。インフルエンザにかかったこともあって、まだ体調が悪いのかなと思っていたら、結局、なかなか言えなかったらしいのですが、「学校に行くのがつらい」「学校に洗脳されてしまいそうだ」と。
受験に力を入れている学校で、毎日課題宿題がたくさん出るんですね。プラス、周りの友だちとの価値観の違いにも悩んでいまして。先生たちから見ると「すごく元気に、明るく楽しそうに過ごしてるよ」とのことですが、本人が「楽しいときもあるけれど、家に帰るまでの間ずっと、相手に合わせることに疲れきってしまう。そのうえで勉強するのは大変だし、このままでは勉強が嫌いになってしまいそうだ」という不安を訴え始めました。
苦労して入った学校ですし、親も続けさせたいという気持ちがあり、娘も「行かなきゃ」という思いがすごく強くて。それで2〜3ヶ月苦しみ、心療内科にかかった方がいいかなっていうくらい落ち込んだ状態でした。
でも、7月中過ぎかな。私もなんとなく吹っ切れて「このまま無理して行くことだけ考えなくても、自分がなりたい目標を持っているんだから、それに向けてがんばればいいんじゃない?」と言ったら、とても気持ちが楽になったみたいです。「じゃお母さん、何か方法考えて」と言うので、いっしょに考え、高校卒業認定資格を取ろうかと。そのときは、1年経たなければ公立への転校が難しい時期でした。「1年遅れるのはいや」と言うので、通信制高校を調べたんです。
そのとき、日野理事長のブログか何かで、「最近、自己愛よりも他人に対する思いやりや社会性の強い若者の間で、退学や不登校が増えている」というような書き出しで始まり、「押しつけられた教育よりも、自分で選んだ学びをしていきたいという子どもたちを応援する」というようなメッセージと出会いまして。娘に見せたら、自分が何で学校に行けなかったかがストンと落ちたようで、「ここに行きたい!」と言いました。
日野 Tさんは、ほんとにあっという間に入学を決断したわけですけれども、どうしてそんな短期間に入学が決定できたんでしょう?
保護者Tさん 娘が「こういう思いで学校経営をしている日野先生の学校に行きたい!」と強く思ったらしいんです。前からあちこちのパンフレット等は取り寄せていましたが、他校にはこれという決め手がなくて、こちらに決めさせていただきました。株式会社ということが、ちょっとひっかかりましたが、「そういう理念を持っていらっしゃる先生の学校だったら大丈夫」と思い、決定させていただきました。
入学後は、心の元気を取り戻した
日野 背筋がしゃんとしますね。このままじゃいけないなと(笑)。さて、入学してまだたかだか半年か数ヶ月ですが、その間に起きた変化について、思い当たることや感じていることを教えていただけますか。
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| 四季折々の花がファームを彩ります |
保護者Tさん 高校卒業認定資格もそうなんですが、この学校に決めさせていただいたのは、先生方がコーチングというスキルをお持ちで、それを活用して本人のやる気を引き出してくれるということに期待を持ったということと、自学自習は自立心を育てると思って。普通は何かやらされがちですよね。それが、インターネットを介して自分が学びたいときに学べるというシステムが整っている。そのサポート体制がしっかりしているということが、最終的な決め手でした。
入学後は劇的に、もはや入学を決めた瞬間から、目に見えて元気になって行きました。それで「自分がとても得した人生を送れるような気がする」と。なぜなら、自分がやりたい方法で勉強ができて、自分の時間も使える。学校に行っていたら、家に帰ってきても勉強勉強で、へたをすれば土日もつぶれてしまうような状況で、自分を見失ってしまいそうな恐怖を感じていたらしいんです。それが、勉強を気にして休みが取れないわけではありませんから、好きな釣りもいっしょに行けるし、自分の時間がとても自由になる。気持ち的にも自由だっていうことが、うれしいようです。一番の変化は、心の元気を取り戻したっていうことだと思います。
日野 いつも目の前に時間割があって、毎日学校に行くってことが決められてしまうと、自分が果たしてほんとに行きたいのか学びたいのか、その時間帯にその勉強をしたいのかっていうことが見失われますよね。食事に例えれば、毎食目の前に自分が頼んでもいないメニューが並んで、ひたすら食べなきゃいけないという状態に陥るようなものだと思うんです。
保護者Tさん もともと勉強が好きだった子なんですよ。ところが、高校に行けなくなった時期には勉強が嫌いになりそうというか、なってたんですね。でも、明蓬館に転入させていただいてからは、勉強がますます好きになったと言っています。
日野 うれしいですね。人間は本来、自分が学びたいことを理性的に考える力は宿っているはずなんです。しかも的確にこの時期にこの勉強がしたいんだ。今この勉強がしたくてしょうがないんだというのは本能的に持ってるはずなんです。それにふたをしてしまってる何かがあるんじゃないかと思えてしょうがないですね。
保護者Tさん 生物とか、化学って、1年生は取れないらしいのですが、うちの子は無性に化学が取りたいらしく、「早く化学やりたい」って言って、化学方面の本を買い込んでは読んで、自分の興味の分野をふくらませているらしいです。
中学も、全日制の高校にもなじめなかった
日野 次は、どんな中学生だったのか、あるいはどういう高校生活だったのか、もう一度、先ほど言えなかったことがあったら教えていただきたいのですが。
保護者Tさん 私の娘は、実は中学校にはほとんど行ってなかったんですね。小学校を卒業する間際にちょっと学校に行くのがつらいような様子が見受けられまして、中学に入ってから何日も行かないうちに学校に行けなくなっちゃったんです。二人でじっくり話しをしたら、ようは怖い夢をくり返しくり返し見ているらしく、すごく恐怖心におびえていて、常に人の目を感じていたようです。
後で考えたら、私が仕事が忙しく、両親が近くにいたのと、夫がすごく子供をかわいがるタイプという安心感があって、仕事に神経を集中していましたので、土日も含めて娘とあまり話す機会といいますか、いっしょに過ごす時間が少なかったものですから、それがよくなかったんだなと気付かされました。それで、中学校時代はほとんど学校には行かなかったのですが、娘と一緒に勉強したり、それからいっぱいいっぱい話す時間を設けたんですね。そうしているうちに、段々と状態が落ち着いてきて、はじめ反抗的だった娘が、本当にあの、こんなにべったりでいいのと言うくらい親密な親子関係になりまして、今はそういった充実感と言いますか幸福感というか、それを娘と一緒に感じながら進んできたな、と。
ただ、高校に入ったとたん、今度は他の子との関わりの中で自分を押し殺さなくちゃいけないつらさを感じたという別な要因でしたけれども、学校に行けなくなっちゃったんですね。そういう紆余曲折はありましたが、いまこうして通信制の高校に行くことによって、また家族で過ごす時間が長くなり、家族の絆が強まるというか、生活が変わったなと思いますね。
テストではなく、成果物で評価してもらえる
日野 明蓬館の、他の高校にない特色というのは、どのあたりでしょうか。
保護者Tさん テストがないんですよね。そして、成果物という形で、自分の趣味のものとかが評価されるっていうのは、子どもにとっては非常にやりやすいと思うんです。
日野 考えてみるとテストがあるっていうのは、先生たちにとってはすごく楽なんですよね。同じテストを受けさせて、点数で輪切りにして評価すればいいので、手を抜くには実に楽な道具で、ほんとはそうしたいなってこともときどき感じたりするんですけどね。違う成果物で出てくると、そのことをめぐって先生たちで話し合わなければいけないし、本人の満足度とか達成感というのを確かめないといけないし、目指す大学などが明確であれば、その大学が求める学力も備えているかどうかも配慮しなければいけないので、そうすると評価が非常に難しいんですね。その内容によっては先生方も非常に手間がかかってしょうがないという部分が、率直に申し上げてあります。先生方の負担を下げるためには、ほんとはテストの方がいいんでしょうが、さいわい先生たちもテストよりは、全人的な評価をしたいということでがんばってくれて。あまり今さらテストを導入しようという気はないですよ。
保護者Tさん 他に、日本の高校卒業資格と同時にアメリカのハイスクールの卒業資格も希望者は取れるというところは、非常に興味深いところがあって。留学ということを多少視野に入れたときに、魅力の一つだなと感じています。
将来は、機械関係や管理栄養士を目指す
日野 では、今お子さんが思い浮かべている夢、あるいは思い浮かべているんじゃないかなという夢。何かありましたら教えてください。夢はまだ期限がないんですよね。いつまでに何をしたいと決まっていると、目標になっていく。そのあたり何か、本人が言っていることとかご様子をお聞きしたいのですが。
保護者Tさん 娘は中学校の2年生くらいから自分のやりたい仕事として、広く言えば人の生活のためになる仕事、なかでも食だとか健康に興味を示していて、できれば管理栄養士だとか食に関する仕事がしたいと思っているらしいんですよ。そのために、目指す大学もいくつか決めていまして、そのための勉強をまずしたいということと、できれば来年あたりでも、野菜ソムリエの資格を取りたいなと。
日野 17〜18歳で野菜ソムリエの資格を取った人は数人しかいないんですよ。だから明蓬館から、野菜ソムリエの資格取ってほしいですよね。
保護者Tさん そうですか。来年ぜひ取りたいって言っています
日野 なかなか難しいですね。内容的に。栄養学あり、物理あり、化学ありね。法律関係も勉強しなきゃいけないので。でもやりがいがありますね。
異質なものがはじかれる、どこかゆがんだ社会
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| レストランをお借りして「クッキングフェスタ」を開催しました |
保護者Tさん あ、そうなんですか。簡単には取れそうにないですね。でも、頑張るという気持ちがあるみたいですね。娘が「今の自分て、外から見たら逆風が吹いてるように見えるんだろうね」と。世間はやっぱり普通に学校に行っていないことが「かわいそう」とか「たいへんね」とか「聞いちゃいけないことを聞いちゃった」みたいな雰囲気がありますよね。そういうのって、時代遅れの考え方だよねって。いろんな勉強の仕方があるし、いろんな人生があるんだから、それを認めてくれる社会だったらいいなって、思ってるらしいです。親としてもそうなんですけど。
他にも、もっともっといらっしゃると思うんですよ。でも、その方法が見つけられなくてまだ悩んでる方もたくさんいると思う。そういう意味でも、こういう高校がもっとスタンダードになってくれればいいなと思ってます。
日野 結局、国民を育てるという名のもとに、同じような学力と同じような知識と教養を学んだ方が会話はしやすい。あるいは組織に入った時に命令を下しやすいとか、指導しやすいとか、そういうレベルでもともと国が組織だった教育体系を作って、ある時期まではそれがすごく役に立って、みんな助かったと言ってたはずなんですよ。ある時期からどうもおかしいぞと、適応できない人が結構出てきてしまった。そして新しい学習ニーズが台頭してきていると思います。
保護者Tさん ほんとに苦しんでる人、たくさんいると思うんですよね。
日野 結局、誰のためになってるのかがわからなくなって、ただ単に今までやってきたことを続けているだけみたいなね。目的がわからずに、教育活動をしていることそのものが目的となってしまって。結局、何のためだったっけ?ということが今はありますね。
保護者Tさん 私の娘は「周りのみんなは、とにかくいい大学に入りたいとか、給料の高い職に就きたいということしかなくて、何になりたいとかどんな仕事をしたいとか、夢を持ってる子が少ない」と言います。逆に、夢を持ってると異質になるみたいで。そういう価値観の違いっていうのが、受け入れられないのはなぜなんだろうと思ってしまいますね。
日野 それと、よく言われると思いますが、こういう学校にいると、人と交わることが少なくなって「気の毒ですね」と。一般的には社交スキルとか、ソーシャルスキルとか、社会性ということを言いたいんだと思いますが、「孤立してしまうと、社会に出たときに困るよ」みたいなことをね。
保護者Tさん 私もよく言われました。他の人たちからね。
日野 ただ、私たちが10年近くやってきて思うのは、同年代で集まること自体は極めて異質な社会性なので、社会に出たときはあまり役に立たないというんでしょうか。同年代の目線だとか差別意識だとか、そういうものはおうおうにしてマイナスに作用するんじゃないかと思うんですよ。異質がはじかれるといいましょうか。「あの子変わってるね」とか。そう言われてしまうというのは、何かやっぱりおかしいんじゃないかと思うんですよね。
保護者Tさん 学校の先生のひと言によってものすごく傷ついて、あるいは見放されたと絶望感を感じて学校に行けなくなる子がけっこう私の周りにもいたんですよ。だから、そういう教育が当たり前みたいな社会っていうのは、ちょっと問題じゃないかと思いますね。
日野 まぁ、教師も人間だって言いますけどね。あまりにも自分自身を大切にしていない先生がいる。そういう先生は、自分を愛してもいないし気にいってもいないし、存在そのものを肯定してもいないんじゃないかな。自分を肯定できない人は他人、まして子どもたちを肯定できるはずがないんです。何か気の毒な境遇か、人生を送ってきた人じゃないかと思いますけどね。そういう人が、学校に逃げ場を求めてきたという印象がしないでもない。歳のいかない生徒たちだったら、こんな自分でも通用するんじゃないかとかね。そう思って教育現場に来てるんじゃじゃないかと、ちょっと勘ぐったりしますね。
地域や仲間、スクーリングでいい出会いが生まれた
日野 最後に、今回のスクーリングについて。まだ3日目で、明日の最終日も楽しみなので、ほんとは最終日に聞きたかったんですが、感想をお聞かせください。
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| レストランは庭の花々で彩られます |
保護者Tさん 気候とか文化とか違う地域なんだろうなと期待してきたけれど、やはりその通り。見るもの聞くものすべて新鮮で、生えてる植物一つとっても、食べ物一つとっても、ちょっとのぞいたスーパーに並んでいるお魚一つとっても違っていて、そういう経験がとても楽しい時間のようです。ただ、たとえば、音楽の先生がピアノの伴奏を用意してきたんだけど、残念ながらオルガンしかないとか、ちょっとまだそういう準備というか、教える側の先生と設備がまだかみ合ってなかったのかなと。そこが改善されるともっともっと来年以降は期待できるスクーリングになるんじゃないかと思うんですね。それと、地域の方がほんとに温かく迎えてくれたのが感激でした。今も栗を持ってきてくださって。柿なんかも。
日野 差し入れのある学校なんて、絶対ないですよね(笑)。差し入れとか、ボランティアとかね。
保護者Tさん 地域の方からいろんな話も伺わせていただきましたし、それも一ついい経験だなと。だから、もっと地域の方と子どもが触れ合う時間が、どこかでできたらいいのかな。まぁ、民泊なんかも含めて。いろんな可能性があると思います。
今後は心身ともに健康で、強さも身につけたい
日野 娘にこうなってほしいというようなことあります?あるいは、娘は娘の人生なんでと、いろんな価値観を親御さんはお持ちですが。
保護者Tさん 周りといっしょが一番安心で、目立つことがいけないみたいな、日本にはどこかそんな風土がありますよね。でも、流されるんじゃなくて、自分で正しいこと、自分でやりたいことを判断して、それを貫ける人間になってほしいなと常に願っていまして、娘も今のところそういった意味では順調に育っているんじゃないかと思いますので、このまま元気に自分の夢をかなえて幸せに暮らしてもらいたいなと思います。
日野 考えてみればヒーローになる人は、ある時期までは周りからすごく白い目で見られて、批判の対象になったりして、何か外国で有名になると凱旋帰国したりします。そうなると、手のひら返したように、「いやぁあの人はすごい」とか言うんですけどね。その人がまだ日の目を浴びていなかったときは、同じ人が何を言ってたかと思うことがありますよね。人間の評価ってすごくはかないといいましょうか、周りに左右される。あるいは、誰か偉い権威ある人の評価に追随してしまって左右されることがあるので、あまり身の回りの評価に右往左往しない方がいいですね。
保護者Tさん そうですね。「自分で納得できたらいい」と思って生活できるといいですね。
日野 友だちとか親友は、何十人も必要ないんで、たった一人いれば、結構人生は楽しいし、強く生きていけるものだと思うんです。私たち先生もそう言ってます。何百人何千人の学校に行けば友だちも多そうですが、ほんとに気の合う、気の置けない友だちが果たして何人いるかって思うんですよね。でも、こういう所に来て、たった4日間ですが同じ釜の飯を食うと、親しくなるんですよね。明日にはまた離れ離れになるわけですが、「彼、今頃何してるかな、どんなこと考えてるかな」「彼だったらこの場でどう判断するかな」と思える人がたった一人いるだけで、人生て豊かになるんじゃないかなと思うんです。
保護者Tさん よくわかります。
日野 以前、「この学校で自分の居場所が見つかり、優しい子供が戻ってきた」とおっしゃっていた親御さんもいました。子どもが小さかった頃を思い出すような、優しい気持ちが戻ってきたと。問題はこの後たくましく、今度は強さもどっかで身につけなきゃいけない。親は子どもといっしょにずっと一生過ごせるわけじゃないですからね。今度はどうやって自立させるか。それが私たちの課題でもあるんです。保護者の方とともに、手を携えて行かなきゃならないですね。
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